10人声かけるまで帰れま10 (2)
俺が勝手に神と崇めるしょうもない話を30分も聴いてくれた彼女と別れたあと、自信に満ちた俺はどこへ行ったか。もちろんセンター街だ
そもそもまだ、3人だし。
センター街って人めちゃ多いから周りの目気にしちゃうんよね。
つまり、周りの目 VS 俺
結局のところ、これに勝たなければこの帰れま10には意味がない。そんなことわかってるけどくそこえー。あーこえー。
しかし今の俺は自信満々。
イヤフォンをつけて歩いてきた金髪で韓国っぽい格好の女の子に話しかけた。
「ダンスやってんの〜?」
服装と髪型的に判断した単なる当てずっぽうだったが、当たったみたいで
「え!何でわかるの?」と言いつつイヤフォンを外してくれた。
まあ結局、勝手についてきてるだけでしょって言われて連絡先はもらえなかったけど…
次、通りすがりのまぶたのアイシャドウが紫で色黒な普段なら絶対に声をかけられない美人に声をかけた。
「今どこ向かってるの?」
結構いい声でいけた。センター街なのに周りの目を気にしていない。集中してきた〜!とか思っていると
「What 〜〜〜⁈」
外人だった…
「You are beautiful!」笑顔で言うと
「Yes.I know!」と答えてきた。
出身地はカリフォルニアらしい。
「I want to talk woman!」文法とかこんなんだったっけな〜とか思いながらいうと
何と言っていたかはわからないが、他にたくさんいるでしょ!がんばりな!みたいなことを言われていた。笑顔でサヨナラした。
調子が良くなってきて一気に10人いった。
やっと帰れる。
だけど、なんか消化不良。
11人目、うまく話せず。
12人目、前から歩いてきたベージュのカーディガンをきた女の子。めっちゃ服が可愛い…思わず
「めっちゃ服可愛いですね」と口をついて出てしまった。
「そうですか?」
「うん。俺の大学、田舎の国立なんだけどこんな可愛い服きたひとおらん…」
しょうもなくて大したことのない学歴を披瀝しつつ相手の服装を褒める、最善の一手!
相手はまんざらでもなさそうだ。
とにかく5分くらい歩いて話していたが、彼女が読書がすきらしい。
読書とか完全に俺のフィールドや。とか思いながら
「本屋いこー!」とテキトーな感じを装いつつ誘ってみると、
「いいよー」
え?いってくれんの?何回も聞き返してしもた
本屋に着くと、水を得た魚。好きな本をプレゼンしてよとか言われて、
「えっ?!いいの?」
とか喜びつつなんども読み返した本を3冊くらい、あらすじとどこの部分がどういう心境の俺に刺さったのかを説明してたら30分くらい経ってた。
彼女はまだ聴いてくれそうだったがネタがなくなるので、服を見に行くことにした。
服とか見てたら、もっと喋りたくなった。
彼女は六本木に行くらしいので、
「歩いて行こうよ」とダメ元で聴いてみた。
「いいよー。歩くといったからには歩くからね?」
いいらしい。
ここからクソ暑い中、1時間半もの旅が始まった。
途中、話が途切れることはなかった。
あるとき、シガーバーの話からタバコの話になって
「タバコ吸うの?」と彼女が聴いてきた。
少しためらって
「吸うよ」と言うと
「奇遇だね。私も」
この奇遇だねという言葉。気取ってる感じが面白くてツボった。
六本木で喫煙所に入る。
女の子と喫煙所に入ったのは初めてだった。
タバコを吸う姿…かっけえじゃん。
でももっといいもの見れた。
彼女の大きく開いた胸元を必要もなく覗き込んでみると、谷間に汗をかいていた。
谷間に、汗を、かいていた。
思わず
「えっちだ…」と口からため息のような言葉がこぼれてしまう。
それをきいて、彼女は驚いたように目を少し見開いたけれど、
「それでね〜」と話を再開した。
俺はこの時に見た光景を忘れてはいけないと思った。
どんな緊張をしてでも、対価としてはこれだけで十分すぎるほどだった。
てかそもそも、俺は何も失っていないのだから得しかしてねえや。
うまく話せた人は12人のうち4人くらいしかいなかったけれど、これだけでもたくさんのものを得た。
帰りの電車では、ホクホクしながら
Linkin Park の Battle Symphonyを聴きながら帰った。この歌を聴くと、夕焼けの曲並みに帰りたくなって気持ちが落ち着く気がする。
つぎはなにしよ〜